山猫を探す人Ⅱ

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2015年 06月 16日

遠野物語 私的解釈④ 長者屋敷

【原典 】
(34話) 白望の山続きに離森と云ふ所あり。その小字に長者屋敷と云ふは、全く無人の境なり。茲に行きて炭を焼く者ありき。或夜その小屋の垂菰をかかげて内を覗ふ者を見たり。髪を長く二つに分けて垂れたる女なり。此あたりにても深夜に女の叫声を聞くことは珍しからず。
(75話) 離森の長者屋敷にはこの数年前まで燐寸の軸木の工場ありたり。其小屋の戸口に夜になれば女の伺ひ寄りて人を見てげたげたと笑ふ者ありて、淋しさに堪えざる故、終に工場を大字山口に移したり。其後又同じ山中に枕木伐出の為に小屋を掛けたる者ありしが、夕方になると人夫の者何れへか迷ひ行き帰りて後茫然としてあること屡々なり。かかる人夫四五人もありて其後も絶えず何方へか出でて行くことありき。此者どもが後に言ふを聞けば、女が来て何処へか連れ出すなり。帰りて後は二日も三日も物を覚えずと云へり。

(76話) 長者屋敷は昔時長者の住みたりし址なりとて、其あたりにも糠森と云ふ山あり。長者の家の糠を捨てたるが成れるなりと云ふ。此山中には五つ葉のうつ木ありて、其下に黄金を埋めてありとて、今も其うつぎの有処を求めあるく者稀々にあり。この長者は昔の金山師ならんか、此あたりには鉄を吹きたる滓あり。恩徳の金山もこれより山続きにて遠からず。

(拾遺131話) 五つ葉のうつ木の話。

【解釈】  

長者屋敷は恩徳の手前で国道をはずれ、琴畑川を遡った先、山落場沢と広股沢の合流地点に近いところにある(らしい)。私も実際に訪れ、このあたりかな?という目星はつけたが、悲しいかな確証はない。
 さて、この長者屋敷という固有名詞を掲げた話は上記の4話だけである。しかし、文面を追ってゆくと長者屋敷のことでは? という話がもう少しありそうである。長者屋敷に住んでいた者の正体は76話で柳田国男が解き明かしてしまっていて、コレデドントハレなのだが・・・

待て待て! この明治の末に起こる怪異現象はそれとは別問題だぞ。

 わざわざ、一個のテーマとして長者屋敷を切り出したのは、柳田国男によって隠された物語が見えたからだ。34話で長者屋敷はおどろおどろしい場所に仕立て上げられた。その詳細談とも云える75話も、そのまま読んでしまえば、なんとも妖怪じみた話で終わってしまう。ここで私的推理。柳田センセ物語のすべてを語っていませんね。柳田センセは性に関してはかなりの潔癖性だと聞いております。しかし山猫を探す人はそうではないので、75話を素直に読むと以下のようになってしまいます。

 離森の長者屋敷には数年前までマッチの軸木工場がありました。夜になると山女が来て人夫を誘惑します。それが毎晩毎晩なので、もう仕事どころじゃありません。ついに工場は移転です。そのあと懲りずに枕木伐り出し小屋が掛けられましたが、山女の性欲は留まるところを知らず四,五人の男を相手にふぃいばあ、ふぃいばあ!
 朝になって帰ってきた男が茫然として、ひどいのになると二,三日も記憶が飛んだという。これではやはり仕事になりません。

長者屋敷の怪異は山女の逆夜這いです。そうなると35話で待てちやアと二声ばかり呼ばれたるのも、拾遺117話で待てえと叫ぶのも、多少ニュアンスが違ってくる。
享楽が目的なのか、はたまた多様な遺伝子を欲する本能的行為なのかはわかりませんが、怪異の影に艶っぽい話が隠されていたのです。

by Wild_Cat_Seeker | 2015-06-16 20:07 | 復刻 山猫の館 | Comments(0)


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